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第30回 『高齢者喘息』

 近年気管支喘息などのアレルギー性疾患の増加が著しく、全人口の約5%にみられるようになりました。また本邦では高齢化社会を迎え、高齢者の気管支喘息が増加しています。

高齢者の喘息では次のような特徴があります

  1)発作寛解期にも症状、肺機能の改善が不完全なことが多い。
  2)慢性閉塞性肺疾患との鑑別が困難なことが多い。
  3)他疾患の合併が多く、薬をたくさんのんでいることがある。
  4)吸入や内服などの治療をうまく出来ないことがある。
  5)ステロイド依存例が多い。
  6)本邦では喘息発作による死亡の平均年齢は62歳と、高齢者に多くみられます。

診断上の問題点
 高齢者は喫煙や大気中の有害物質を長期間吸入するなどによって、慢性閉塞性肺疾患を合併していることが多いため、喘息の治療だけでは症状が改善しないことがあります。
 喉頭や食道括約筋の機能が低下し、気道に唾液や食物が入りやすいため、刺激になったり、感染を起こしたりして喘息発作を誘発することがあります。また気付かない程度の微量の誤嚥が続くと、慢性の細気管支炎を起こします。喘息と似た症状ですが、治療法は別ですので注意が必要です。
 その他心不全、肺癌、肺結核、胃食道逆流症が多くみられるので診断時に確認が必要です。

治療上の注意
 高齢者では喘息以外にも病気を持ち、また複数の医療機関で治療をうけていることが多いため、受診時に主治医に伝えましょう。

1.ステロイド治療
 ステロイド吸入を上手に出来ないことがあります。この場合治療効果が減少したり、副作用で口内炎や骨粗しょう症が増悪します。このような場合ステロイド内服薬が長期投与されることがあります。高齢者では糖尿病や消化管出血などの副作用が出現しやすいため注意が必要です。
 特に骨粗しょう症の結果骨折を起こすと生活の質が著しく低下し、寝たきりになる場合もありますので、その予防は大切です。適当な運動、カルシウムを多く含む食品、ビタミンDの補給など普段から気をつけておきましょう。

2.気管支拡張薬
 β2刺激薬の効果は加齢とともに低下します。また動悸、ふるえなどの副作用が出現しやすいため吸入量を減らします。必要があれば抗コリン薬の吸入を行います。

3.テオフィリン
 高齢者では薬剤の排出が遅れるため、血中濃度が上昇します。副作用が出現しやすいので、内服量を少なめにします。他の薬剤の影響で血中濃度が変化するため、薬ののみ合わせに注意が必要です。

 高齢者喘息では治療によって生活の質はかなり向上しますが、治療に対する理解が乏しい場合には治療の選択肢は制限されます。また長期間の治療では加齢や合併症に伴う問題点も多く、医療以外の面からも治療をサポートすることによって治療効果が得られるようになります。