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第23回 『ヘリコバクターピロリと消化性潰瘍』

 ヘリコバクターピロリは慢性胃炎患者の胃粘膜から発見された細菌です。この菌は乳幼児期に口から入って胃に感染します。日本では40歳以上では7〜8割に感染していますが、若年者では2割程度の感染率です。40歳以上の世代は乳幼児期、まだ上下水道が完備していない環境で育ったために、飲料水を介してこの菌が感染したと考えられます。

ヘリコバクターピロリと消化性潰瘍
 ヘリコバクターピロリは胃炎や消化性潰瘍の重要な原因と考えられています。特に日本人では胃潰瘍の9割はこの菌が原因といわれています。
 消化性潰瘍はよくみられる病気ですが、最近はプロトンポンプインヒビターなどの胃酸分泌抑制薬によってほぼ完全に治るようになりました。しかし胃酸分泌抑制薬だけでは高率に再発がみられるため、潰瘍が治癒した後も維持療法が行われてきました。

除菌治療
 平成15年4月、胃潰瘍診療ガイドラインが発表されました。胃潰瘍の治療では消炎鎮痛剤をのんでいない事を確認した上で、ヘリコバクターピロリ感染の有無を調べ、陽性の場合は除菌療法を最優先の治療としています。この治療は胃の細菌を取り除くための治療なので、腹痛などの自覚症状が改善しても、全量をきちんと内服することが大切です。また治療中に下痢や味覚異常などの副作用が出現する可能性がありますが、症状が強い場合は内服を中止せずに担当医に相談して下さい。
 除菌失敗群では12ヶ月後に胃潰瘍の再発率が65%だったのに対して、除菌成功例では11%と、除菌療法は潰瘍再発に劇的な効果をもたらし、維持療法の必要性は少なくなりました。
 除菌治療は現在胃潰瘍、十二指腸潰瘍などに行われます。また萎縮性胃炎、胃過形成ポリープなどは将来的には除菌が望ましいと考えられています。

ヘリコバクターピロリと胃癌発生
 ヘリコバクターピロリと胃癌発生の関係を調べた検討では、ヘリコバクターピロリ陰性で、胃粘膜に全く炎症のない例280人からは平均8年の観察期間中胃癌の発生はありませんでした。一方ヘリコバクターピロリ陽性群1240人からは36人胃癌の発生が認められました。これは1年間に0.5%の頻度で、特に腸上皮化生がある胃粘膜萎縮の強い例で胃癌発生率が高いことがわかりました。

除菌治療と胃食道逆流症
 ヘリコバクターピロリは萎縮性胃炎を起こし胃酸分泌能を低下させます。除菌後に炎症が改善し胃酸分泌能が回復するなどのため、むねやけなど胃食道逆流の症状が増悪することがあり問題となっています。

 消化性潰瘍の多くはこれらの治療によって、再発無く完治する病気となりました。胃潰瘍は頻度が高い病気であるため、除菌治療が医療費の高騰を抑制すると期待されています。腹痛などの症状が続く時には受診して適切な治療を受けましょう。