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第12回 『慢性閉塞性肺疾患の気管支拡張薬治療』

慢性閉塞性肺疾患の気管支拡張薬治療
 慢性閉塞性肺疾患とは肺気腫、慢性気管支炎または両者の合併により起こる呼吸困難を特徴とする疾患です。2001年に発表された、日本での疫学調査では慢性閉塞性肺疾患患者は40歳以上で8.5%、540万人と高い有病率が示されています。これは従来の20倍で患者数が急増しています。さらにそのうち90%が医師による診断を受けていないといわれています。
 慢性閉塞性肺疾患の治療は吸入、内服薬などの薬物療法、酸素療法、包括的呼吸リハビリテーション、栄養管理、禁煙療法などを総合的に行います。今回は薬物療法のうち気管支拡張薬治療についてご紹介します。

治療の目標
 慢性閉塞性肺疾患は喘息と違って、完全にはもとにもどらない病変です。従って「今より悪くしない」ことが第一の目標です。慢性閉塞性肺疾患の原因の9割は喫煙です。次に気道閉塞を軽減させることによって自覚症状の改善をはかります。この目的で気管支拡張薬を使用します。

気管支拡張薬
 気管支拡張薬では、抗コリン薬、β2刺激薬、テオフィリン製剤の3種類が使用されます。
 1.抗コリン薬
 慢性閉塞性肺疾患では副交感神経によって、気道がれん縮し呼吸困難が出現します。抗コリン薬は副交感神経による気道のれん縮を抑制します。また慢性閉塞性肺疾患では高齢者が多いため、β2刺激薬が効きにくく従来から、抗コリン薬の吸入が第一に使われてきました。

 2.β2刺激薬
 β2刺激薬は交感神経を刺激し、気管支を拡張させます。慢性閉塞性肺疾患では高齢者にも副作用の少ない、長時間作用型β2刺激薬の吸入、貼り薬が使用されます。貼り薬は1日1回貼るだけですみ、使いやすい薬剤です。また気管支が収縮して吸入薬が到達しにくい部位にも効果があります。β2刺激薬は喘息治療でも多用されるように、末梢の気管支拡張作用が抗コリン薬よりも優れています。喘息を合併した慢性閉塞性肺疾患患者で特に有効です。

 3.テオフィリン製剤
 テオフィリン製剤の作用機序は抗コリン薬、β2刺激薬の吸入と比較するとまだ不明の部分が多くあります。その効果も気管支拡張作用の他に、呼吸中枢に対する刺激作用、横隔膜の運動効率を高める作用があります。呼吸運動を改善させる効果があるため、呼吸困難の軽減に有効です。

 以上の薬の効果、副作用を考え、患者さんに合わせて使います。これらの気管支拡張薬は作用機序が異なるため、併用することによって治療効果を高め、副作用を軽減することができます。重症度が中等症以上の患者さんでは2種類以上の薬剤を併用します。
 慢性閉塞性肺疾患の治療は患者数の増加にもかかわらず、あまり行われていないのが現状です。呼吸困難や痰のある方はまず受診して、今以上症状を悪化させないことが大切です。