病気を知ろう

第8回 小児喘息

 小児の喘息では、診断や治療で成人と異なる点は多いですが、気道のアレルギー性炎症をコントロールする事が大切であるという点では成人の場合と同様です。 

1.診断

 小児で喘鳴、呼吸困難、咳を示す疾患は喘息以外にも以下のような疾患があります。

1)先天性異常、発達の異常による
 先天性心疾患、気管支軟化症、線毛運動機能異常など
2)感染症による
 クループ、気管支炎、細気管支炎など
3)その他
 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、気道内異物など

 小児では喘息診断のために必要な検査を十分に行えないことも多いため、家庭での症状や診察所見から、注意深く診断する必要があります。

2.使用する薬剤

 症状の強さに応じて、以下の薬剤を単独もしくは併用して使用します。

1)β2刺激薬吸入薬
 通常症状増悪時に使用します。使い過ぎると動悸などの副作用が出現しますので、1日の使用回数上限を決めて使用します。
 この薬にはアレルギー性炎症を抑える作用はありませんので、吸入ステロイド薬や徐放性テオフィリン製剤と併用して使用します。

2)吸入または経口抗アレルギー薬
 吸入ではインタール吸入液にβ2刺激薬を加えたものを定期的に吸入します。また経口薬は軽症例に使用されます。

3)ロイコトリエン拮抗薬
 小児にも適応が拡大されました。成人では一定の効果がみられており、小児でも使用が広まっていくと予想されます。

4)徐放性テオフィリン製剤
 気管支拡張作用に加えて、抗炎症作用も持つ薬剤です。吐き気や動悸、頭痛などの副作用がでやすいので、テオフィリンの血中濃度を測定して、投与量を決定します。

5)β2刺激薬貼付剤

6)吸入ステロイド薬
 重症度が中等症以上の患者で使用します。優れた抗炎症作用を持ち、小児喘息でも使用される頻度が増加してきました。
 副作用として、常用量では成長に影響を及ぼさないと考えられています。一方大量の使用では、成長の抑制や副腎皮質機能の抑制が報告されています。口腔内カンジダ症や、声枯れは治療量にかかわらず起こることがありますので、吸入後のうがいは忘れずにする必要があります。

7)経口ステロイド薬
 通常の治療を行ってもコントロールが得られない最重症例で使用します。副腎機能不全や骨そしょう症、肥満などの副作用がでやすいので、十分量を短期間に限って投与します。

 これらの薬剤を使用して、できるだけ早くアレルギー性炎症を収め、症状の無い状態を維持することが大切です。

3.学校生活と喘息

 体育の授業では運動誘発喘息に注意が必要です。これについては健康講座の第15回をご覧ください。
 食物アレルゲンによって発作が誘発される場合には、アレルゲン除去食が必要です。該当食品が明確で分離できる場合には(牛乳、果物など)除去します。しかし除去食品が多い場合や、重症で危険性の高い場合には学校給食よりも弁当持参が必要となることがあります。
 修学旅行などの学校行事では普段どおりの内服、吸入治療を継続します。発作の可能性がある場合には、あらかじめ短期間経口ステロイド薬を使用し発作を予防します。

4.思春期の喘息

 この時期には患者自身が治療の管理をするようになります。また受験などのストレスや、女子では生理などにより喘息症状が増悪します。特にこの年代の男子では喘息死が増加し、問題となっています。
 増悪を予防するためには、きちんと受診して治療方針を守る、夜更かしやたばこなど日常生活に注意する、自分が喘息であることの自覚を持つ事が大切です。

5.治療目標

 小児気管支喘息の長期治療の目標は、日常生活を健康児と同じ様に過ごすことができ、肉体的、精神的に成長し、成人後に喘息を持ち越すことなく治癒するよう導くことです。
 小児の喘息は思春期までに半数は治癒するといわれています。そのために治療を継続して気道炎症をコントロールし、喘息症状がない状態を維持することが大切です。この時期の喘息治療は患者にとって一生にかかわる重要な問題です。

 今後小児喘息の治療では、成人で著明な効果が認められている吸入ステロイド薬と、小児にも適応が拡大されたロイコトリエン拮抗薬などをどのように使用していくかの検討が待たれます。

第7回 気管支喘息とは

1.気管支喘息とはどのような病気でしょう?

 喘息は気管支が狭くなって、呼吸が苦しくなり、ゼーゼー、ヒューヒューする病気です。その他咳や痰などの症状もみられます。

 古典的には気流制限(気道が狭くなり呼吸しにくくなる)が、可逆性(よくなったり、わるくなったり)に起こる、気道平滑筋のスパズム(けいれん性に収縮する)と考えられていました。
 1980-1990年代になると、気管支喘息とは気道の慢性炎症性疾患であり、それによって気道壁のリモデリング(上皮下基底膜が肥厚する、気道平滑筋が肥大、増殖するなど、気道の形態が変化する)が起こると考えられるようになりました。また気管支線毛上皮細胞(痰を外に出す)が消失するため、痰が出にくくなります。その結果気道がさらに狭くなり、気道内にアレルゲンが残存しやすくなるため炎症を増悪させます。
 このような状態では気道の過敏性が出現し、わずかな刺激でも気管支が収縮しやすくなります。健常人では反応しないようなホコリ、タバコの煙、冷たい空気などによって発作が誘発されます。最終的には慢性的な呼吸機能低下が起こると考えられています。

2.どの位の患者さんがいるでしょう?

 わが国では成人の3%、小児では6%が喘息にかかっているといわれています。1960年代には成人で1%弱、小児で1%程度でした。その後ほぼ10年ごとに1.5倍程度増加していると報告されています。

3.喘息による死亡者数はどのぐらいでしょう?

 わが国の喘息死亡者は、1年間に4000人弱で、10万人あたり3人です。2000年ごろから減少傾向ですが、これは男性患者の死亡が減少しているためです。従来欧米諸国よりも喘息死が多くみられましたが、最近では5−34歳の患者死亡率が10万人あたり0.3人と欧米諸国とほぼ同じレベルになりました。
 これはわが国で喘息ガイドラインが普及し、医療関係者、患者の治療レベルが向上し、吸入ステロイドの使用が増加したためと考えられています。

第6回 タバコと慢性閉塞性肺疾患

■COPD(慢性閉塞性肺疾患)の特徴

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気については、このシリーズの最初に詳しく述べましたので、ここでは簡単な説明に留めておきます。

COPDとは
  1. 中年以後に発症し、
  2. せき、たん、息切れなどの症状が徐々に進行し、
  3. 長い喫煙歴を持つ人に多くみられます。

はじめはせき、たん階段を昇るときの息切れなど運動時の呼吸困難がおこりますが、進行すると平地を歩いても呼吸が苦しくなります。同じような症状がおこる病気に気管支ぜんそくがありますが、ぜんそくは発作のときだけ呼吸困難がおこりますが、COPDでは常に同じような症状があり、禁煙しなければ徐々に進行するのが特徴です。COPDで息切れがおこる主な原因は気管支が狭くなるためですが、COPDではいったん気管支が狭くなってしまうと元に戻らなくなってしまいます。
 COPDの最も大きな特徴は、3.の長い喫煙歴の持ち主に多いことです。COPDは肺がんとともにタバコが最も悪さをする肺の病気です。現在わが国におけるCOPDも患者さんは未治療の軽症の人を含めると数百万人(人口の4〜5%)と推定されています。またCOPDによる死亡者数も多く、日本人の死亡原因の10番目(男性では8番目)です。WHO(世界保健機関)によると、世界全体では1990年には死亡順位6位でしたが、2020年には3位になると予想されています。


 COPDの初期症状は
  1. カゼをひいているわけでないのにセキやタンがでる、
  2. カゼをひきやすく、一度ひくと治りにくい、
  3. ちょっとした運動で息切れをおこしやすい、

などです。しかし、40歳以上の人ではこのような症状は日常的におこりやすいものなので、駅の階段などで息切れを感じても「年のせいで体力が落ちたためだろう」などと自分を納得しがちで、怖い病気という自覚はほとんどありません。

■COPDの正確な診断には肺機能検査が不可欠

 COPD の診断や、それが軽いか重いかを知る目安の1つに、肺機能検査時に調べられる「1秒量」があります。これは、息をいっぱいに吸ったところから、いっきに吐き出したとき、最初の1秒間で吐き出される空気の量のことで、スパイロメーターという専用の装置で簡単に測定できます。1秒量は20歳代をピークに、年齢とともに徐々に減少していきますが、減少のスピードが喫煙者と非喫煙者では大きく異なります。
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非喫煙者の場合は1つ年をとるごとに30‐35mL減りますが、喫煙者では60−80mL減ります。20歳代で1秒量が同じでも、50歳になると喫煙者と非喫煙者では1000mLちかく差が出る計算です。体格や年齢によってちがいますが、大まかな目安として1秒量が1500−1600mL以下になると運動時の息切れがはじまり、1000mL以下になると日常のちょっとした動作でも呼吸が苦しくなり、場合によっては酸素を吸わないと生きていけなくなります。逆にいえば、COPDで息切れが出てくるのは病気がかなり進行してからで,前述のように息切れは元に戻りませんから、もっと軽いうちにみつけて禁煙などの対策をとる必要があります。タバコを吸って1秒量が正常より低くなっていても禁煙すれば1秒量の減るスピードは遅くなり病気の進行がとめられます。そこで喫煙者、とくに40歳以上で喫煙指数(1日のタバコ本数 × 喫煙年数)が200以上の人は、a.〜c.のような自覚症状がなくても、呼吸器専門外来でスパイロメーターによる検査を受けることをお勧めします。
 1秒量とあわせて、COPDの診断をする肺機能検査の項目に「1秒率」があります。1秒率とは1秒量を努力性肺活量(息をいっぱいに吸い込んでいっきに吐いたときに、吐き出される空気の量)で割った値のことです。正常人の1秒率は80%以上ですが、COPDでは70%以下になっています。少しの運動で常に息切れがおこる人では60%以下になっていることも少なくありません。

■COPDとタバコの関係

 COPD はタバコと深い関わりを持つ病気ですが、禁煙の効果について最初に客観的データが示されたのは、1990年代前半に北米で行なわれた「ラング・ヘルス・スタディ」(Lung Health Study)と呼ばれる研究です。この研究は喫煙習慣のある軽症から中等症のCOPD患者約4000人を対象に、その呼吸機能の変化を5年間にわたって追跡調査したものです。その結果、禁煙すると最初の1年目は1秒量が増加し、その後の加齢による1秒量の減少の度合いも年間31mlと、タバコを吸ったことのない人と同じ程度になるのに対し、タバコを吸い続けると年間62mlと2倍のスピードで低下することがわかりました。また禁煙すると気管支を広げる薬の効果が強くなることや、年齢や肺機能低下の程度に関係なく禁煙の効果が得られることが確かめられました。
k_jan_01.gif現在COPDは薬物やリハビリテーションによって治療されていますが、薬物には症状を軽くする作用はありますが、呼吸機能を改善する効果はありません。このためCOPDの進行を止めるのは禁煙しか方法がありません。禁煙すれば、1ヶ月以内にはセキ・タンの量や回数が減り、息切れも改善します。症状が軽いうちに禁煙すれば、数ヵ月後には呼吸器症状がほぼなくなってしまうことが大半です。
 COPD の患者さんで「すでに病気は重く、気管支が狭くなったのが治るわけではないから、禁煙してももう遅い」と考える人も少なくありませんが、やはり禁煙は重要です。まずセキ・タンが減り、それに伴って息苦しさも軽くなります。また、1秒量が低下した重症のCOPD患者さんを18年間にわったって追跡調査した研究でも、禁煙した人では約60%が生存し、タバコを吸い続けた人では20%しか生存しなかったという結果がでています。
 1秒量が1000ml程度の重症のCOPD患者さんが5年後に生存している確率は約50%とされます。このような患者さんでもただちに禁煙に踏み切りさえすれば、大幅に余命を延ばす可能性があります。
 禁煙する場合、よく本数を徐々に減らして禁煙しようとする人がよくいますが成功することは少ないようです。思い立った日から1本も吸わない「完全禁煙」がコツです。最初の1−2週間はタバコの離脱症状(イライラ、頭痛など)で苦しい思いをしますが、命には替えられません。禁煙の意思が固いのに、なかなか自力で禁煙できない人にはニコチンパッチなどの処方やカウンセリングなどをしてくれる禁煙外来が有効かもしれません。各地で禁煙外来を開設する病院も増えてきています。具体的にはインターネットで検索すると簡単にわかります。

第5回 喘息の治療、よくある質問

以下の質問は気管支喘息の治療について、患者さんからよくきかれるものです。





私は喘息ですか?

Q. ときどき咳や、ゼーゼーと息苦しい感じが起きます。とくに夜や早朝に起きやすいです。クリニックでもらった吸入薬を使うとすぐに症状は良くなります。

A. 夜や早朝に起きる咳込み、ゼーゼー、息苦しさは喘息によくみられる症状です。クリニックでもらった吸入薬(β2刺激薬)ですぐに症状がよくなるなら、診断は喘息ないしその類縁疾患です。頻度的には喘息であることがほとんどです。正確な診断を受けて治療を開始しましょう。

喘息は治りますか?

Q.
喘息と診断され、治療を継続しています。いつ喘息は治りますか?

A.
喘息の病態は慢性の気道炎症です。喘息は高血圧や糖尿病のような慢性の病気です。かぜの咳のような感染症は一週間も治療すれば完治しますが、喘息ではそうはいきません。成人してから発症した喘息患者さんでは治癒といわれる、長期間発作のない状態になるのは軽症患者のうちのごく一部の患者さんだけです。多くの喘息患者さんでは一時的に症状が改善しても、かぜや疲れ、アレルギー性鼻炎などをきっかけにして、症状が再悪化する場合がほとんどです。重症度が軽症持続型以上の患者さんでは長期管理薬による治療を継続した方が、将来的に良い結果をもたらします。

喘息の治療はいつまで続ければいいですか?

Q.
喘息のため吸入薬、内服薬の治療をしています。いつまで続ければいいですか?

A.
喘息患者さんの多くは室内のダニ、ほこりなど喘息を悪化させる原因を減らすことによって症状は軽減します。それに加えて正しい薬物治療を続けることによって、健康人と同等な家庭生活、社会生活を送ることができます。
 しかし喘息患者さんでは気道炎症が慢性的に続くことによって、気道壁のリモデリング(気管支壁が厚くなる)が起こり、また急性の気管支収縮が起こりやすくなります。その結果喘息が重症化、難治化し、呼吸機能が低下してきます。もとにある気道炎症を抑える治療を継続して重症化を防ぐ事が、喘息の治療で一番大切な事です。

発作が無いのに治療をする?

Q. 喘息の治療を開始して発作がなくなったのに、吸入を続けるようにいわれました。発作が無いのに治療をする必要がありますか?

A. 喘息を発症して何年もたった患者さんでは、気管支が収縮してもあまり息苦しさを感じない場合があります。自覚症状がなくても、肺機能が低下している場合は治療を続けます。ピークフローモニタリングによって、自宅で毎日肺機能を調べる場合がありますが、この値が低い場合や一日の変動率が大きい場合も治療を継続します。自覚症状だけで判断せずに、喘息の病態によって治療方針を決定することが大切です。

ピークフローモニタリングをした方がいい?

Q. 受診時にピークフローを毎日測定して記録するようにいわれました。いままでも喘息日誌に症状の記録はしていましたが、これだけじゃだめでしょうか?

A. 喘息の重症度は以前は発作の強さや回数など自覚症状で判定していました。しかし患者さんによって苦しい感じを強く感じる人もいれば、あまり感じない人もいます。あまり苦しいと感じない人の方が、重症の喘息発作を起こして入院する回数が多いといわれています。このような事を防ぐために、自宅で毎日ピークフローモニタリングを行い、ピークフロー値の変化で病状を判断し、治療方針を決めていくようになりました。患者さんに合ったグリーンゾーン、イエローゾーン、レッドゾーンを決めています。クリニックでご相談ください。

喘息患者の日常生活の注意点

Q. 喘息の診断を受けて治療を継続していますが、時々発作が出現します。毎日の生活でどのような点について注意したらいいでしょうか。

A. 喘息発作の誘因には様々なものがありますが、吸入アレルゲンで最も重要なのはハウスダスト、ダニです。またカンジダ、クラドスポリウムなどのカビも喘息症状を増悪させます。カビは洗面所、浴室また結露した壁などで増殖します。換気をよくしてカビがはえないようにしましょう。室内でペットを飼う家庭がふえています。イヌ、ネコなど毛のはえたペットでは、毛やフケ、付着したダニ、カビが発作の原因となります。その他、花粉アレルゲンや自動車の排気ガス、感冒、仕事による過労、ストレス、睡眠不足などが発作の原因となります。

ダニは喘息発作を起こす重要な因子

Q. ダニに対してアレルギーがあると言われましたが、どうすればいいですか?

A. 成人喘息では6-7割の患者でダニに対するアレルギーがみられます。ダニは室内の埃の中にあるアレルゲンで、ダニに対してアレルギーがある喘息患者が吸入すると、症状の悪化を起こします。ダニを最も吸入しやすいのは夜寝具に入る時です。そのため寝具は良く干して、掃除機をかけて埃やダニをできるだけ少なくすることが大切です。カーペットもダニが増えやすいので、できればフローリングにした方が良いでしょう。

アレルギー性の喘息

Q. 検査の結果アレルギー性の喘息といわれました。治療法が違うのでしょうか?

A. 成人喘息患者のうち2/3はなんらかのアレルギー性素因を持っています。小児ではアレルギー性素因を持つ患者がほとんどで、逆に高齢者では少ない傾向です。喘息の気道炎症の病態はアレルギー性でもそうでなくても同じです。シラカバ、カモガヤ、ヨモギなど花粉アレルギーをもつ患者さんは、花粉の飛散時期に鼻炎症状とともに喘息症状が増悪しますので、通常の治療に加えて花粉飛散前から抗アレルギー薬の内服を開始し発作を予防します。

タバコは喘息発作以外にも他の病気の原因になります

Q. 発作の原因になるからタバコをやめるようにいわれましたが、なかなかやめられません。

A. 喘息の治療をしながら、タバコを吸っている人がいます。タバコは喘息発作を引き起こすのみならず、肺気腫や肺癌など他の病気の原因となります。高齢になってから喘息に肺気腫を併発すると呼吸困難が増悪し、在宅酸素療法が必要になることがあります。こういう患者さんでも喘息発作中は苦しくなるため、タバコを吸えないことが多いようです。発作が起こったのを機会に、ニコチンパッチなどの禁煙方法がありますので、禁煙指導も受けると良いでしょう。

吸入ステロイドの使い方と副作用

Q. 吸入ステロイドを毎日使うようにいわれましたが、ステロイドの副作用が心配です。

A. ステロイド薬は長期間にわたり、のみ続けると全身的な副作用が出現します。糖尿病、胃潰瘍、骨そしょう症、高血圧、肥満、小児では成長遅延などです。そのため気管支喘息の治療ではステロイド薬の内服治療は発作時の短期間のみ行い、症状改善後吸入ステロイドに変更することが普通です。吸入ステロイドは通常の使用量では、全身性の副作用の心配は殆どありません。ステロイドの吸入量が多くなると、のどの違和感、声のかすれ、咽頭カンジダ症が起こることがありますが、いずれも吸入を中止または減量によって自然に改善します。また吸入後は必ずうがいをして、のどの局所症状や嚥下して全身的な副作用を起こすのを予防します。

気管支拡張剤の吸入は使っても大丈夫?

Q. 喘息の治療中ですがまだ時々発作があります。先日クリニックで気管支拡張剤の吸入をするように言われましたが、友人からこの吸入を使うと死ぬことがあると聞きました。

A. この吸入薬はβ2刺激薬です。気管支を拡張させ、症状を改善させる即効性の薬です。この薬は単独で使用するのではなく、吸入ステロイドなどの長期管理薬をきちんと続け、それでも症状が増悪する時に併用する薬です。以前はこの薬だけを使いすぎたためと考えられる喘息死がありましたが、現在では正しい使い方が普及してきたためそのようなことは殆ど無くなりました。一日に3−4回吸入する程度では危険性はありません。

妊娠中の喘息治療は?

Q. 喘息の治療中ですが、妊娠しました。今までどうりの治療でいいでしょうか。

A. 妊娠中に重症発作が続くようでは、低酸素血症のため胎児の成長障害や流産も起こりえます。治療は基本的には妊娠前の治療を継続します。吸入ステロイド、内服薬の治療を継続し、ダニなどのアレルゲン吸入を避けてください。また喘息治療薬の胎児に対する影響を心配して、勝手にやめることのないようにしてください。薬の副作用よりも重症発作のほうが胎児に悪影響を及ぼします。病状からみて減らせる薬は中止ないし減量 します。ステロイドやβ2刺激薬の吸入は正しく使用していれば、継続して問題ありません。内服薬ではステロイド薬の短期内服、テオフィリン薬も問題ありません。抗アレルギー薬、 メディエーター拮抗薬は、吸入薬のインタール以外は安全性が確立していませんので、内服を中止すべきです。主治医に妊娠したことを必ず告げて、治療方針の相談をしてください。

小児の喘息は大人と違いますか?

Q. 3歳の子供ですが、喘息の治療を続けて元気にしています。子供の喘息は大きくなると治ると聞いたことがありますが?

A. 小児の喘息では半数は思春期までに治るといわれています。この場合のように治療を続けて、発作の無い状態を維持することが喘息を治すために大切です。喘息の病態は大人も子供も大きな差はありません。しかし子供は成長に伴って、気管支が大きく成長し、肺機能も値が大きくなっていきます。この期間にきちんと治療を続けることで、治癒する確率が高くなります。治療終了時期については主治医に相談してください。

第4回 気管支喘息の薬物治療

 気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患です。発作が起きていない時も気道の炎症は続いています。従って症状が消失してからも、長期にわたり気道炎症を抑える治療(コントロール)が必要になります。目的は気道壁のリモデリングを防ぐ、呼吸機能低下を防ぐ、喘息死を防ぐことです。そのために長期管理薬(コントローラー)を継続して使用します。コントローラーには以下のような種類があります。

1.吸入ステロイド薬

 吸入薬は気道の粘膜に直接作用するため、内服薬に比べて少ない量で効果が得られます。また全身の副作用も軽微です。主な副作用は声のかすれ、口腔カンジダ症ですが、吸入後のうがいで予防できます。
 ステロイド薬は気道炎症を抑える効果が最も強力な薬剤です。その機序は炎症細胞浸潤を抑制する、サイトカイン(喘息の炎症の原因となる物質)産生を抑制する、気道壁のリモデリングを予防するなどです。この薬剤の使用により喘息患者入院数や喘息死の減少が認められています(この薬剤だけ)。また呼吸機能の改善や気道過敏性(症状がでやすい)の改善も認められますが、特に気道過敏性の改善は喘息発症後数年以内に治療を開始した場合に認められます。喘息発症初期から使用して優れた治療効果が得られています(early intervention)。使用量は初め高用量で開始して、低用量で維持するのが基本です。
 小児においては以前、副作用の心配からあまり使用されませんでした。しかし最近は成人同様に良好な効果が認められ、副作用もほとんど無いことが分かってきたため、第一選択薬として使用されるようになりました。

1)アルデシン、ベコタイド、キュバール(一般名ベクロメサゾン)

 アルデシン、ベコタイドは30年前に発売された薬で、これまでの使用経験に基づいた豊富な臨床データがあります。発売当初は1日4回の吸入が必要といわれており、吸入のし忘れが問題でした。1吸入で一定の量の薬剤が吸入できますが、製剤にフロンを含むため、将来的には製造中止となる予定です。また吸入補助具(スペーサー)を使用する手間がありました。しかし呼吸機能が低下した患者でも十分に吸入ができるという利点もあります。
 キュバールはフロンを使用していない新製品です。粒子径が小さいため(1μm)、スペーサーを使用する必要がありません。従来の製剤よりも末梢気道まで到達するため、より良好な治療効果が期待されます。しかし実際に治療効果を評価するには、これからデータの蓄積が必要です。

2)フルタイド(一般名フルチカゾン)

 ベクロメサゾンよりも抗炎症作用が強く、1日1-2回の吸入でベクロメサゾンよりも良好な治療効果が得られます。しかし乳糖を添加した製剤で粒子径が大きいため、末梢気道への沈着率が低いといわれています。また呼吸機能が低下した患者では吸入が困難です。のどの刺激感、声がかすれるなど咽喉頭の副作用が強いのが欠点です。

3)パルミコート(一般名ブデソニド)

 タービュヘイラーという優れた吸入容器(容器自体が特許をもつ)に入っており、吸入が容易です。粒子が小さく一回の吸入量も少ないため、咽喉頭の副作用が少なく、呼吸機能が低下した患者でも吸入が可能です。また肺内沈着率が高く、気管支に長くとどまる(脂肪酸エステル化されるため)という長所があります。1日1-2回の吸入で十分な効果が得られます。以上3剤のうち安全性が最も高いといわれています(特に妊婦において。アメリカ合衆国のFood & Drug Administrationによる)。

2.長時間作用性吸入β2刺激薬

セレベント(一般名サルメテロール)

 これまで日本で発売されていた吸入β2刺激薬は短時間作用性の製剤のみでした。これらは耐性が出現しやすく(効果が減弱する)、患者さんが依存に陥りやすいという欠点があり、吸入の乱用と喘息死との関連からマスコミにもとりあげられたことがありました。頻回に使い続けると気道過敏性が亢進する(症状がでやすくなる)といわれており、これが喘息の重症化に関与すると考えられています。また吸入ステロイドを併用しない単独使用は、上皮下の基底膜肥厚を促進させる(非可逆的な病変を増悪させる)ため、軽症患者以外では望ましくありません。
 一方長時間作用性吸入β2刺激薬は作用時間が長く、一度吸入すると半日以上有効です。1日2回定期的に使用し(regular use)、短時間作用性吸入β2刺激薬がリリーバー(発作治療薬)と呼ばれるのに対して、長時間作用性吸入β2刺激薬はコントローラー(長期管理薬)と呼ばれます。これ自身には抗炎症作用がないため、吸入ステロイド薬と併用して使用します。
 この薬剤はβ2受容体選択性が高いという特徴があるため、少量の吸入で効果が十分にあり、耐性や副作用を生じにくいと考えられています。また吸入ステロイド薬の抗炎症効果を増強します。このように吸入ステロイド薬との相性が良いため、欧米では合剤(一度の吸入ですむ)も発売されています。アメリカ合衆国National Institutes of Health の喘息治療ガイドライン、Global Initiative for Asthmaでは中等症の持続型喘息患者で第一選択薬とされています。これからますます使用されるようになる薬剤と考えられます。
 長時間作用性吸入β2刺激薬に関連して、β2刺激薬の貼付剤、ホクナリンテープがあります。これは皮膚を通して薬剤が吸収されるため、血中濃度が一定に維持されるという長所があります。またいつでもはがせるため、全身性の副作用の心配もありません。

3.抗ロイコトリエン薬

オノン(一般名プランルカスト)
アコレート(一般名ザフィルルカスト)
キプレス、シングレア(一般名モンテルカスト)

 ロイコトリエンというサイトカイン(喘息の炎症の原因となる物質)は気管支喘息の病態のほとんどに関与している悪玉です。その作用として気管支にある肥満細胞や好酸球という炎症細胞の活性化や他のサイトカインの放出を起こします。気道の血管透過性を亢進させることにより浮腫を起こします。気道平滑筋を収縮させ、増殖させるため気道の狭窄を増悪させます。気道上皮細胞を障害し病態を悪化させます。
 抗ロイコトリエン薬には効果発現が1-2日と、治療開始早期からみられるという長所があります。吸入ステロイド薬と併用して喘息の治療効果を高める、そして吸入ステロイド薬を減量させる効果もあります。
 問題点としては利かない症例がある点です。開発治験時の有効性が60%でした。この数字は他の抗アレルギー薬よりは有効性が高いが、40%の患者では治療効果がみられなかったということです。また他の薬剤よりも値段が高いのも欠点です。
 この薬剤はアレルギー性鼻炎、特に鼻づまりの強いタイプに有効なため、アレルギー性鼻炎を合併した喘息患者によく使用されます。

4.テオフィリン徐放製剤

 日本では古くから喘息治療の中心的薬剤として使用されてきました。有効血中濃度の幅が狭いため、十分な治療効果を得ようとすると吐き気、動悸などの副作用が出やすい薬剤です。気管支拡張作用は10-20μg/ml、抗炎症作用は5-10μg/mlで得られますが、副作用が20μg/mlから出現します。治療時には血中濃度の測定をして、投与量の決定をします。最近は抗炎症作用を期待しての投与が多いため、投与量も以前より少なめで副作用も軽度になりました。重症度が中等症以上の患者さんで、吸入ステロイド薬と併用して使用することが多いです。