病気を知ろう

第4回 気管支喘息の薬物治療

 気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患です。発作が起きていない時も気道の炎症は続いています。従って症状が消失してからも、長期にわたり気道炎症を抑える治療(コントロール)が必要になります。目的は気道壁のリモデリングを防ぐ、呼吸機能低下を防ぐ、喘息死を防ぐことです。そのために長期管理薬(コントローラー)を継続して使用します。コントローラーには以下のような種類があります。

1.吸入ステロイド薬

 吸入薬は気道の粘膜に直接作用するため、内服薬に比べて少ない量で効果が得られます。また全身の副作用も軽微です。主な副作用は声のかすれ、口腔カンジダ症ですが、吸入後のうがいで予防できます。
 ステロイド薬は気道炎症を抑える効果が最も強力な薬剤です。その機序は炎症細胞浸潤を抑制する、サイトカイン(喘息の炎症の原因となる物質)産生を抑制する、気道壁のリモデリングを予防するなどです。この薬剤の使用により喘息患者入院数や喘息死の減少が認められています(この薬剤だけ)。また呼吸機能の改善や気道過敏性(症状がでやすい)の改善も認められますが、特に気道過敏性の改善は喘息発症後数年以内に治療を開始した場合に認められます。喘息発症初期から使用して優れた治療効果が得られています(early intervention)。使用量は初め高用量で開始して、低用量で維持するのが基本です。
 小児においては以前、副作用の心配からあまり使用されませんでした。しかし最近は成人同様に良好な効果が認められ、副作用もほとんど無いことが分かってきたため、第一選択薬として使用されるようになりました。

1)アルデシン、ベコタイド、キュバール(一般名ベクロメサゾン)

 アルデシン、ベコタイドは30年前に発売された薬で、これまでの使用経験に基づいた豊富な臨床データがあります。発売当初は1日4回の吸入が必要といわれており、吸入のし忘れが問題でした。1吸入で一定の量の薬剤が吸入できますが、製剤にフロンを含むため、将来的には製造中止となる予定です。また吸入補助具(スペーサー)を使用する手間がありました。しかし呼吸機能が低下した患者でも十分に吸入ができるという利点もあります。
 キュバールはフロンを使用していない新製品です。粒子径が小さいため(1μm)、スペーサーを使用する必要がありません。従来の製剤よりも末梢気道まで到達するため、より良好な治療効果が期待されます。しかし実際に治療効果を評価するには、これからデータの蓄積が必要です。

2)フルタイド(一般名フルチカゾン)

 ベクロメサゾンよりも抗炎症作用が強く、1日1-2回の吸入でベクロメサゾンよりも良好な治療効果が得られます。しかし乳糖を添加した製剤で粒子径が大きいため、末梢気道への沈着率が低いといわれています。また呼吸機能が低下した患者では吸入が困難です。のどの刺激感、声がかすれるなど咽喉頭の副作用が強いのが欠点です。

3)パルミコート(一般名ブデソニド)

 タービュヘイラーという優れた吸入容器(容器自体が特許をもつ)に入っており、吸入が容易です。粒子が小さく一回の吸入量も少ないため、咽喉頭の副作用が少なく、呼吸機能が低下した患者でも吸入が可能です。また肺内沈着率が高く、気管支に長くとどまる(脂肪酸エステル化されるため)という長所があります。1日1-2回の吸入で十分な効果が得られます。以上3剤のうち安全性が最も高いといわれています(特に妊婦において。アメリカ合衆国のFood & Drug Administrationによる)。

2.長時間作用性吸入β2刺激薬

セレベント(一般名サルメテロール)

 これまで日本で発売されていた吸入β2刺激薬は短時間作用性の製剤のみでした。これらは耐性が出現しやすく(効果が減弱する)、患者さんが依存に陥りやすいという欠点があり、吸入の乱用と喘息死との関連からマスコミにもとりあげられたことがありました。頻回に使い続けると気道過敏性が亢進する(症状がでやすくなる)といわれており、これが喘息の重症化に関与すると考えられています。また吸入ステロイドを併用しない単独使用は、上皮下の基底膜肥厚を促進させる(非可逆的な病変を増悪させる)ため、軽症患者以外では望ましくありません。
 一方長時間作用性吸入β2刺激薬は作用時間が長く、一度吸入すると半日以上有効です。1日2回定期的に使用し(regular use)、短時間作用性吸入β2刺激薬がリリーバー(発作治療薬)と呼ばれるのに対して、長時間作用性吸入β2刺激薬はコントローラー(長期管理薬)と呼ばれます。これ自身には抗炎症作用がないため、吸入ステロイド薬と併用して使用します。
 この薬剤はβ2受容体選択性が高いという特徴があるため、少量の吸入で効果が十分にあり、耐性や副作用を生じにくいと考えられています。また吸入ステロイド薬の抗炎症効果を増強します。このように吸入ステロイド薬との相性が良いため、欧米では合剤(一度の吸入ですむ)も発売されています。アメリカ合衆国National Institutes of Health の喘息治療ガイドライン、Global Initiative for Asthmaでは中等症の持続型喘息患者で第一選択薬とされています。これからますます使用されるようになる薬剤と考えられます。
 長時間作用性吸入β2刺激薬に関連して、β2刺激薬の貼付剤、ホクナリンテープがあります。これは皮膚を通して薬剤が吸収されるため、血中濃度が一定に維持されるという長所があります。またいつでもはがせるため、全身性の副作用の心配もありません。

3.抗ロイコトリエン薬

オノン(一般名プランルカスト)
アコレート(一般名ザフィルルカスト)
キプレス、シングレア(一般名モンテルカスト)

 ロイコトリエンというサイトカイン(喘息の炎症の原因となる物質)は気管支喘息の病態のほとんどに関与している悪玉です。その作用として気管支にある肥満細胞や好酸球という炎症細胞の活性化や他のサイトカインの放出を起こします。気道の血管透過性を亢進させることにより浮腫を起こします。気道平滑筋を収縮させ、増殖させるため気道の狭窄を増悪させます。気道上皮細胞を障害し病態を悪化させます。
 抗ロイコトリエン薬には効果発現が1-2日と、治療開始早期からみられるという長所があります。吸入ステロイド薬と併用して喘息の治療効果を高める、そして吸入ステロイド薬を減量させる効果もあります。
 問題点としては利かない症例がある点です。開発治験時の有効性が60%でした。この数字は他の抗アレルギー薬よりは有効性が高いが、40%の患者では治療効果がみられなかったということです。また他の薬剤よりも値段が高いのも欠点です。
 この薬剤はアレルギー性鼻炎、特に鼻づまりの強いタイプに有効なため、アレルギー性鼻炎を合併した喘息患者によく使用されます。

4.テオフィリン徐放製剤

 日本では古くから喘息治療の中心的薬剤として使用されてきました。有効血中濃度の幅が狭いため、十分な治療効果を得ようとすると吐き気、動悸などの副作用が出やすい薬剤です。気管支拡張作用は10-20μg/ml、抗炎症作用は5-10μg/mlで得られますが、副作用が20μg/mlから出現します。治療時には血中濃度の測定をして、投与量の決定をします。最近は抗炎症作用を期待しての投与が多いため、投与量も以前より少なめで副作用も軽度になりました。重症度が中等症以上の患者さんで、吸入ステロイド薬と併用して使用することが多いです。