病気を知ろう

第6回 タバコと慢性閉塞性肺疾患

■COPD(慢性閉塞性肺疾患)の特徴

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気については、このシリーズの最初に詳しく述べましたので、ここでは簡単な説明に留めておきます。

COPDとは
  1. 中年以後に発症し、
  2. せき、たん、息切れなどの症状が徐々に進行し、
  3. 長い喫煙歴を持つ人に多くみられます。

はじめはせき、たん階段を昇るときの息切れなど運動時の呼吸困難がおこりますが、進行すると平地を歩いても呼吸が苦しくなります。同じような症状がおこる病気に気管支ぜんそくがありますが、ぜんそくは発作のときだけ呼吸困難がおこりますが、COPDでは常に同じような症状があり、禁煙しなければ徐々に進行するのが特徴です。COPDで息切れがおこる主な原因は気管支が狭くなるためですが、COPDではいったん気管支が狭くなってしまうと元に戻らなくなってしまいます。
 COPDの最も大きな特徴は、3.の長い喫煙歴の持ち主に多いことです。COPDは肺がんとともにタバコが最も悪さをする肺の病気です。現在わが国におけるCOPDも患者さんは未治療の軽症の人を含めると数百万人(人口の4〜5%)と推定されています。またCOPDによる死亡者数も多く、日本人の死亡原因の10番目(男性では8番目)です。WHO(世界保健機関)によると、世界全体では1990年には死亡順位6位でしたが、2020年には3位になると予想されています。


 COPDの初期症状は
  1. カゼをひいているわけでないのにセキやタンがでる、
  2. カゼをひきやすく、一度ひくと治りにくい、
  3. ちょっとした運動で息切れをおこしやすい、

などです。しかし、40歳以上の人ではこのような症状は日常的におこりやすいものなので、駅の階段などで息切れを感じても「年のせいで体力が落ちたためだろう」などと自分を納得しがちで、怖い病気という自覚はほとんどありません。

■COPDの正確な診断には肺機能検査が不可欠

 COPD の診断や、それが軽いか重いかを知る目安の1つに、肺機能検査時に調べられる「1秒量」があります。これは、息をいっぱいに吸ったところから、いっきに吐き出したとき、最初の1秒間で吐き出される空気の量のことで、スパイロメーターという専用の装置で簡単に測定できます。1秒量は20歳代をピークに、年齢とともに徐々に減少していきますが、減少のスピードが喫煙者と非喫煙者では大きく異なります。
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非喫煙者の場合は1つ年をとるごとに30‐35mL減りますが、喫煙者では60−80mL減ります。20歳代で1秒量が同じでも、50歳になると喫煙者と非喫煙者では1000mLちかく差が出る計算です。体格や年齢によってちがいますが、大まかな目安として1秒量が1500−1600mL以下になると運動時の息切れがはじまり、1000mL以下になると日常のちょっとした動作でも呼吸が苦しくなり、場合によっては酸素を吸わないと生きていけなくなります。逆にいえば、COPDで息切れが出てくるのは病気がかなり進行してからで,前述のように息切れは元に戻りませんから、もっと軽いうちにみつけて禁煙などの対策をとる必要があります。タバコを吸って1秒量が正常より低くなっていても禁煙すれば1秒量の減るスピードは遅くなり病気の進行がとめられます。そこで喫煙者、とくに40歳以上で喫煙指数(1日のタバコ本数 × 喫煙年数)が200以上の人は、a.〜c.のような自覚症状がなくても、呼吸器専門外来でスパイロメーターによる検査を受けることをお勧めします。
 1秒量とあわせて、COPDの診断をする肺機能検査の項目に「1秒率」があります。1秒率とは1秒量を努力性肺活量(息をいっぱいに吸い込んでいっきに吐いたときに、吐き出される空気の量)で割った値のことです。正常人の1秒率は80%以上ですが、COPDでは70%以下になっています。少しの運動で常に息切れがおこる人では60%以下になっていることも少なくありません。

■COPDとタバコの関係

 COPD はタバコと深い関わりを持つ病気ですが、禁煙の効果について最初に客観的データが示されたのは、1990年代前半に北米で行なわれた「ラング・ヘルス・スタディ」(Lung Health Study)と呼ばれる研究です。この研究は喫煙習慣のある軽症から中等症のCOPD患者約4000人を対象に、その呼吸機能の変化を5年間にわたって追跡調査したものです。その結果、禁煙すると最初の1年目は1秒量が増加し、その後の加齢による1秒量の減少の度合いも年間31mlと、タバコを吸ったことのない人と同じ程度になるのに対し、タバコを吸い続けると年間62mlと2倍のスピードで低下することがわかりました。また禁煙すると気管支を広げる薬の効果が強くなることや、年齢や肺機能低下の程度に関係なく禁煙の効果が得られることが確かめられました。
k_jan_01.gif現在COPDは薬物やリハビリテーションによって治療されていますが、薬物には症状を軽くする作用はありますが、呼吸機能を改善する効果はありません。このためCOPDの進行を止めるのは禁煙しか方法がありません。禁煙すれば、1ヶ月以内にはセキ・タンの量や回数が減り、息切れも改善します。症状が軽いうちに禁煙すれば、数ヵ月後には呼吸器症状がほぼなくなってしまうことが大半です。
 COPD の患者さんで「すでに病気は重く、気管支が狭くなったのが治るわけではないから、禁煙してももう遅い」と考える人も少なくありませんが、やはり禁煙は重要です。まずセキ・タンが減り、それに伴って息苦しさも軽くなります。また、1秒量が低下した重症のCOPD患者さんを18年間にわったって追跡調査した研究でも、禁煙した人では約60%が生存し、タバコを吸い続けた人では20%しか生存しなかったという結果がでています。
 1秒量が1000ml程度の重症のCOPD患者さんが5年後に生存している確率は約50%とされます。このような患者さんでもただちに禁煙に踏み切りさえすれば、大幅に余命を延ばす可能性があります。
 禁煙する場合、よく本数を徐々に減らして禁煙しようとする人がよくいますが成功することは少ないようです。思い立った日から1本も吸わない「完全禁煙」がコツです。最初の1−2週間はタバコの離脱症状(イライラ、頭痛など)で苦しい思いをしますが、命には替えられません。禁煙の意思が固いのに、なかなか自力で禁煙できない人にはニコチンパッチなどの処方やカウンセリングなどをしてくれる禁煙外来が有効かもしれません。各地で禁煙外来を開設する病院も増えてきています。具体的にはインターネットで検索すると簡単にわかります。