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第42回 高齢者の糖尿病

 高齢の糖尿病患者さんでは、加齢による機能低下に加え、糖尿病以外の病気の合併も多いため、通常の治療が困難な場合も珍しくありません。 
 2016年6月に改定された、糖尿病治療ガイドでも、この点が初めて記載されました。

1.高齢者糖尿病治療の注意点
  1)高齢者ではとくに低血糖に注意が必要です。スルホニル尿素薬によるもの、空腹時の入浴によるものなどがあります。また遷延性低血糖をきたす危険があるため、薬剤の種類や量に注意が必要です。高齢者の低血糖では、転倒を起こしやすく、認知症など他の病気と間違われることがあります。
  2)高齢者では腎臓、肝臓、心臓の予備能力低下があるため、薬剤や輸液の副作用に注意が必要です。ビグアナイド薬による乳酸アシドーシス、チアゾリジン薬による浮腫、α-グルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬による腸閉塞、SGLT2阻害薬による脱水などの副作用がみられます。これらは重篤な場合もあり、薬剤を少量から開始するなど、注意が必要です。
  3)高齢者では、基礎代謝の低下、口渇感の減弱、夜間頻尿や尿失禁の心配から摂水量が減少する、などの理由で脱水が起こりやすくなります。SGLT2阻害薬内服中の患者さんや夏場には水分補給が必要です。

2.認知症の合併
  1)高齢者糖尿病では、健常高齢者と比べて、2-4倍、認知症の合併が多い。
  2)治療による低血糖は、認知症発症のリスクを高める。
  3)認知症は、糖尿病のコントロールを悪化させると同時に、患者さんケアの上で問題となる。
 そのため、患者さんの認知機能、身体機能を評価し、家族によるサポート、訪問サービスなどにより、定期的に食事をとる、きちんど薬をのむ、インスリン注射をするように指導することが重要です。

3.高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標
 高齢者では心身機能の個人差が大きく、治療に伴う低血糖も起こりやすくなります。低血糖は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高め、また認知症の原因ともなります。
 基本的な考え方は
  1)血糖コントロール目標は患者さんの特徴、健康状態を考慮して、個別に設定する。
  2)低血糖が心配される場合は、目標を下げ、より安全な治療を行う。
  3)目標値は参考としながらも、患者さんによっては、それ以上あるいは、それ以下の設定も柔軟に行う。
具体的な数値は
  1)認知症の合併があるか。
  2)身の回りのことが、自分でできるか。
  3)他の病気の合併があるか。身体の機能障害があるか。
  4)インスリン製剤、スルホニルウレア薬など低血糖を起こしやすい薬を使用しているか。
などを考慮し、 HbA1c で 7 % 未満から、8.5 % 未満の間でコントロールすることを推奨しています。

 今回の改定では、高齢者は糖尿病治療上、病状に個人差が大きく、通常の治療では低血糖の危険性も高いことから、治療目標も柔軟に設定できる、としています。患者さん一人ひとりに合った治療法を選択していくことが大切です。具体的な、詳しい内容については、クリニックでお尋ねください。

第41回 最新の経口糖尿病治療薬

 糖尿病は最近、新しい治療薬が使用できるようになり、選択肢が増えました。
薬の種類 糖尿病の内服薬には、次のようなものがあります。

1.インスリン抵抗性改善系:インスリンの効果を高める薬
 1)ビグアナイド薬
   肝臓で糖をつくるのを抑制します。
 2)チアゾリジン薬
   筋肉、肝臓でインスリンの効果を促進します。

2.インスリン分泌促進系:インスリンを多く分泌させる薬
 1)スルホニルウレア薬
   常時インスリン分泌を促進します。
 2)グリニド薬
   食後速やかにインスリン分泌を促進し、食後の血糖を下げます。
 3)DPP-4阻害薬
   血糖に応じて、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。

3.糖吸収・排泄調節系:糖の腸管からの吸収、腎臓からの排泄を調節する薬
 1)α-グルコシダ-ゼ阻害薬
   炭水化物の吸収を遅らせて、食後高血糖を改善します。
 2)SGLT2阻害薬
   腎臓で糖の再吸収を阻害し、尿中に排泄します。

 このうち一番新しい薬がSGLT2阻害薬です。この薬は腎臓に作用して血糖を下げる、初めての薬です。
 2型糖尿病では、血糖値が高いにもかかわらず、腎臓での糖の再吸収が亢進しています。それをSGLT2阻害薬は健康人以下に低下させ、糖を尿中に排泄し、血糖を下げます。

1.SGLT2阻害薬の効果
 1)インスリン分泌を刺激しないので、インスリン分泌促進系の薬と相乗効果が期待できる。
 2)腎機能が低下した糖尿病患者さんでは、糖のろ過量、再吸収能が低下しているので、効果は減弱する。

2.SGLT2阻害薬のベネフィット
 1)血糖が高いほど、血糖を下げる力が強く、単剤での低血糖のリスクが少ない。
 2)長期間持続的な血糖コントロールが得られる。
 3)今までにない作用機序のお薬で、他のすべての血糖降下薬と併用可能です。

3.血糖を下げる以外の作用
 1)糖を尿中に排泄し、脂肪量を減少させ、体重を減らす。
 2)内臓脂肪量も減少させ、インスリン抵抗性やメタボリックシンドロームを改善する。
 3)糖と同時に塩分も尿中に排泄させ、血圧を下げる。
 4)中性脂肪の分解を促進し、中性脂肪値を下げる、善玉コレステロール値を高める。
 5)尿酸の尿中への排泄を促進し、尿酸値を下げる。
 6)SGLT2阻害薬は腎臓で血糖を下げるため、インスリン分泌量を減らし、膵臓を保護する。その結果、インスリン分泌能の改善が期待できる。

 このように、すぐれたお薬ですが、現在まで尿路感染症、性器感染症、頻尿、多尿、脱水、ケトアシドーシス、皮疹など、多くの有害事象も報告されています。特に高齢者にはよい適応ではありません。また腎機能の低下した患者さんや、経口摂取が十分でない患者さんでは、注意が必要です。糖尿病学会では、SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendationを出して、適正使用をよびかけています。投与に適した患者さんを選んで使用すれば、いい効果が期待できるお薬です。詳細については、クリニックでお尋ねください。

第40回 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の栄養療法

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんは呼吸をするために、健常人よりも多くのエネルギーを必要とします。いつもジョギングをしているような状態です。常に十分なエネルギーと蛋白質、ビタミンなど栄養素の補充が欠かせません。

COPDの患者さんがやせる理由
 COPDの患者さんは呼吸機能の低下や横隔膜の動きの悪さをカバーするため、呼吸筋を一生懸命動かして呼吸するので、健康人よりも呼吸に多くのエネルギーを消費します。しかしCOPDの患者さんでは、食事をとると、息苦しくなり、疲れる。また膨張した肺が胃を圧迫しているため、食欲がない。食事で十分な量をとれない。その結果栄養不足となり、重症になるに従って、しだいにやせてしまいます。  こうなると呼吸に使う筋肉が弱って、さらに苦しくなります。また呼吸リハビリテーションも十分に行えなくなり、その結果体力が衰え、呼吸機能が低下するという悪循環に陥ります。
呼吸商の低い食物を
 食事で摂取した栄養分をエネルギーとして利用する時には、酸素が消費され、二酸化炭素が発生します。この時、酸素1に対して発生した二酸化炭素の量を「呼吸商」で表します。COPDの患者さんでは呼吸で二酸化炭素を排出する機能が低下しています。そのため呼吸商の低い栄養分をとり、肺の仕事の負担を軽減する必要があります。
 バター、クリーム、オリーブ油、ゴマ油など脂質は呼吸商が0.7と低く(炭水化物は呼吸商が1と高い)、また高エネルギーの食品のため、少量で多くのエネルギーを摂取できます。おかずに炒め物や揚げ物を加えるなど、脂質を食事に取り入れて、効率よくエネルギーを補給しましょう。
必要な食物
 健常人体重50Kgの人で、安静時必要エネルギーを1日1,500Calとして、COPDの患者さんではその1.5倍、2,200Calが目標となります。これは青年期の食事量に匹敵する量です。
多すぎて一度に食べられない時には、1日3回の食事に2回の間食を加えるなど、食事の回数を増やして、少しずつ食べるようにしましょう。果物、ヨーグルト、チーズ、ゆで卵などを手の届きやすい所に置いておくとよいでしょう。高エネルギー、高たんぱく質、高ビタミンの食事を食べるようにしましょう。
 それでも十分な量を食べられない時には、高カロリーの栄養補助食品がありますので、主治医に相談してみましょう。
控えたい食物
 胃にガスが溜まりやすいものは、食欲が低下し、横隔膜の運動を制限しますので、避けましょう。ビール、炭酸飲料、さつま芋などです。
 塩分の多い食品も控えましょう。COPD患者さんの心臓に負担をかけます。漬物、汁物、麺類、加工食品、インスタント食品などです。
食事上の注意点
 COPDの患者さんは水分をとると痰が出やすくなり、気道の衛生を保てますので、意識して水分を補給するようにしましょう。むせやすく飲みにくい場合には、野菜ジュースなど濃い飲物がおすすめです。ただし重症のCOPDで心不全を合併している場合は塩分、水分制限が必要ですので、主治医に相談して下さい。
 また軽症のCOPD患者さんで、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を併発した場合にも、食事制限が必要ですので、主治医に相談して下さい。

以上の適切な栄養管理で、呼吸に使う筋肉を強め、体力を維持しましょう。これによってかぜなどの感染症による急性増悪を予防し、また呼吸リハビリテーションの十分な効果が期待できます。

第39回 肥満と運動療法

 肥満度を示す指標として、ボディマスインデックス、BMI(Body Mass Index)が使用されます。BMIは体重(Kg)/身長2(m2)で算出します。肥満度が上昇すると病気にかかりやすくなり、死亡率が上昇します。健康で最も病気にかかりにくいBMI値は22で、理想体重とされます。 このときの体重(Kg)=身長2(m2)X22を標準体重として使用します。例えば身長160cmでは標準体重は56Kgです。BMIが24を超えると肥満と呼ばれます。

運動療法の減量効果
 運動強度では中等度以下の運動で糖質、脂質両方が消費され、強度が高まるにつれ主に糖質が消費されるようになります。運動開始初期にはまずグリコーゲンが利用され、次に糖質が消費されます。運動が長時間になると、脂肪が消費されるようになります。従って、脂肪を減らす目的の運動療法では、中等度以下の強度の運動を長時間行うのが効果的です。

運動療法の全身への効果
1.インスリン感受性
 運動によりインスリン感受性が改善し、糖尿病にかかりにくくなります。
2.循環器疾患
 運動により脂肪が消費され、高脂血症が改善します。その結果高血圧が改善したり、虚血性 心疾患の頻度が低下します。
3.体力向上
 運動により心肺機能が高められます。筋力が強化され、骨からのカルシウム喪失が予防でき ます。
4.その他
 運動により爽快感がえられ、ストレス解消になります。神経系を賦活させるため、老化防止 に効果があります。また免疫能を高めカゼなどの感染症にかかりにくくなります。

減量のしかた
1.食事療法
 肥満のある場合、当初は1日の摂取カロリーを1200Cal、もしくは標準体重X25Calとします。これで1日に500Calの負のエンルギーバランスとなり、週に0.5kgの減量、1-2ヶ月で3kgの減量を目指します。
 しかし実際にはこの1日摂取カロリーを継続していくことは難しいことが多いため、下記の運動療法で1日300kcalを消費し、軽作業をしている場合で1日摂取カロリーを1500Cal前後とすることが多いです。
2.運動療法
 40分間の歩行や自転車で消費される熱量は約160Calで、ごはん茶碗1杯分のカロリーに相当します。運動療法のみで十分な減量をするのは、長時間の運動が必要となるため、継続するのは困難です。食事療法や内服薬と併用して効果を高めましょう。
 まず1日の食事や行動の記録をとり、摂取エネルギー量、消費エネルギー量を算出します。最初は1日消費エネルギー量の10%の運動量から始めましょう。例えば1日消費エネルギー量が1500Calなら150Cal、体重50Kgの人で歩行なら40分間、ジョギングなら20分間の運動量から開始します。
 
 無理のない生理的範囲の減量は、月に1-2Kg程度脂肪組織が減る程度と考えられます。脂肪組織1Kgは7000Calのエネルギー量に相当します。1日に換算すると250-500Calの負のエンルギーバランスとなります。このうち半分のカロリーを食事療法で減量し、残り半分に相当する運動をすると良いでしょう。具体的には毎日、ごはん茶碗1杯分摂取カロリーを減らし、 40分間歩く、となります。

第38回 『喘息の吸入抗原』

 喘息を増悪させる吸入抗原には、ハウスダスト、ダニなどほこりの成分、シラカバ、ヨモギなどの花粉、ペットのふけ、カビ、職業に関係したものなどがあります。成人では約2/3の患者さんでアレルギー性素因が認められますが、小児ではほとんどの例でアレルギー性素因がみられます。

症状
 ダニなどのアレルギーを持つ喘息患者さんがアレルゲンを吸入すると、吸入直後に気道が収縮し発作を起こします。さらに吸入数時間後から気道にアレルギー性炎症が起こり、遅発性の喘息症状の悪化をきたします。
 喘息発作がどのような時に起こるのかが大切です。吸入した直後でなくてもその日の夜から発作が始まることがあります。また喘息症状以外にも鼻水や目のかゆみを伴っていることがあります。のどの違和感が強い場合にはかぜと思っている患者さんがいます。
 室内で飼うペットアレルギーでは、飼育を始めると症状が出現し、ペットの手入れをすると症状が増悪します。花粉ではシラカバは春、カモガヤは夏、ヨモギは秋にアレルギー症状を増悪させます。一方ダニアレルギーでは1年中症状が続きますが、就寝時に増悪することがよくあります。

検査、診断
 アレルギー体質の人では血液中の好酸球やIgE抗体の増加が認められます。また特定のアレルゲンに対して結合する特異的IgE抗体を持っています。血液検査で特異的IgE抗体の種類と量を調べます。アレルゲンに対して反応するかどうか皮膚テストをすることもあります。さらに吸入誘発試験をして喘息発作が誘発されれば、アレルゲンであると確定されます。この検査は入院して施行しますが重症発作の危険性もあり、実際には症状や特異的IgE抗体から原因アレルゲンを判断しています。

アレルゲンへの対策
 ダニは喘息患者の吸入アレルゲンのうちでハウスダストとともに最もよくみられるものです。ダニは暖かく湿ったところでよく繁殖します。都市部で喘息の発症頻度が高いのは密閉した室内で、ダニが繁殖することが理由の1つと考えられます。窓を開けて部屋の風通しをよくしましょう。
 ダニを吸入するのが一番多いのは夜寝具に入る時です。寝具は干して掃除機をかけておきます。まくらカバー、シーツも洗濯してダニを除きます。絨毯、カーペットはダニが増えやすいところなのでよく掃除機をかけ、できれば使わないようにします。その他布製のソファ、クッション、ぬいぐるみにも掃除機をかけたり、カバーを洗ったりしましょう。
 花粉アレルギーの患者さんは花粉の季節に目や鼻の症状とともに、喘息症状が増悪します。花粉飛散開始前に抗アレルギー薬の内服治療を開始して症状の悪化を予防します。ネコ、イヌなどのペットを室内で飼うことは喘息発作の原因となります。

 喘息患者さんはまず検査を受けて、どの抗原に対してアレルギーがあるのかを知りましょう。そしてできるだけアレルゲンを取り除いたり、避けるようにすることが喘息治療の第一歩です。