第25回 妊娠と喘息

 妊娠、出産は女性の喘息患者さんにとっては、避けて通れない問題ですが、一方で治療に対する不安の原因ともなっています。

妊娠中の喘息症状

 妊娠すると喘息症状は1/3で改善、1/3で不変、1/3で悪化するといわれており、どうなるか一概にはいえません。実際には、妊娠した女性は胎児の奇形を心配するため、治療をしたがらない場合がほとんどです。その結果、感冒や疲労を契機に, 喘息症状が悪化します。一方妊娠6ヶ月を過ぎると、喘息症状は軽減することが多く、薬を減量できることもしばしばです。しかし出産後しばらくすると、もとの症状に戻る傾向があります。これらのことから上記のような頻度となると考えられます。

喘息が母体、胎児に及ぼす影響

 妊娠中の喘息のコントロールが不良であれば、母体に高血圧、尿毒症、性器出血、分娩異常などをひきおこします。胎児には胎児低酸素血症、子宮内発育遅延、低体重、早産などの危険性が増します。
 これらは妊娠中に、どの薬を使用したかよりも、妊娠中の喘息発作の強さや回数に影響されます。

喘息発作と喘息治療薬はどちらが危険か

 妊娠中には薬剤はすべて有害であると思っている人がいますが、喘息の治療薬によってヒトで奇形が起こったという報告は現在までなされていません。一方で、喘息の女性では自覚症状がほとんどなくても、胎児への酸素供給が障害されていることがあります。喘息発作時には胎児は母親以上に呼吸困難を起こしています。喘息治療薬の副作用を恐れて治療をしないことは、胎児にとって非常に危険です。

妊娠中の喘息治療

 妊娠中にはカゼをひかないようにし、過労にならないよう注意しましょう。喘息発作を誘発するペットを室内で飼わない、タバコの煙をさける、ホコリが少なくカビがはえないよう生活環境を整備することが大切です。ピークフロー測定による病状把握に基づいて、喘息治療を継続しましょう。
 妊娠中は安全性の高い吸入ステロイド薬と吸入β2刺激薬を使用しましょう。重症で併用薬が必要な場合は、テオフィリン薬、ステロイド薬の内服を追加します。喘息発作の場合は低酸素血症の胎児への影響を考慮し、入院して酸素吸入、気管支拡張剤の吸入や点滴などの治療が必要となります。これらの治療は今までの治療経験から安全と考えられています。
 抗アレルギー薬については未だ安全性が確立されていないので、インタール吸入以外は使用を避けましょう。

 妊娠中は胎児のためにも、喘息症状を悪化させないことが必要です。適切な治療を受けると、喘息の妊婦でも流産、早産や奇形の頻度は健常妊婦と同等です。定期的に呼吸器科に通院し、喘息がコントロールされた状態を維持することが大切です。

一覧へ戻る