第15回 運動誘発喘息

 気管支喘息では運動によって発作が誘発されることがあり、運動誘発喘息と呼んでいます。1984年に開催されたロサンゼルスオリンピックでは、金銀銅のメダリスト316人のうち、41人に運動誘発喘息が認められました。喘息であっても運動能力を高めることは十分に可能です。

症状

 運動誘発喘息は小児喘息患者に多く、約半数にみられます。これが気管支喘息の最初の兆候であることがよくあります。また重症な喘息患者ほど、運動によって症状が誘発されやすい傾向があります。
 典型的には運動開始から終了後にかけて、喘息症状が出現し、即時型反応と呼ばれます。一方運動終了後、6時間から12時間たって、症状が増悪することがあり、遅延型反応と呼ばれます。この場合には運動誘発喘息と気づかないことがあるため、注意が必要です。

発症機序

 運動時には呼吸が速くなり、水分が蒸発します。その結果気道粘膜の浸透圧が高くなり、化学伝達物質が遊離され気道が収縮します。また水分が蒸発すると気道の温度が低下し、これが気道収縮に関与していると考えられています。気象条件では湿度が低い時、また気温が低い時に発作が起こりやすくなります。また運動が激しいほど、発作が起こりやすくなります。

診断・治療

 診断では、運動によって誘発される喘息症状の強さを調べるため、トレッドミルなどの運動負荷試験を含めた呼吸機能検査を行います。日常的には、毎日行える呼吸機能検査法であるピークフロー測定が有用です。6分間のランニングを行ない、心拍数とピークフローの測定を行います。軽度の運動誘発喘息では10ー20分後に軽快します。これらの結果から運動の強度を調整します。
 薬物治療では通常の喘息治療に加えて、ロイコトリエン拮抗薬の内服が発作予防に有効です。また運動開始前に、即効性の気管支拡張薬を吸入します。

運動誘発喘息と水泳

 運動誘発喘息があっても、体育の授業を免除したり、スポーツを禁止する必要はありません。身体機能の発達を妨げたり、内向的な性格を形成する危険があります。最近ではむしろ薬物治療を併用し、適切なトレーニングを行うことによって、発作が起こりにくくなると考えられています。
 運動誘発喘息児に最もお勧めの運動は水泳です。水泳は湿度、温度の高い環境で行われる運動で、気道が乾燥しにくく、温度が低下しにくいためです。また水中で息を吐くため気道内に陽圧がかかり、気道の収縮が予防されること、ホコリが少ないことなどが発作が起こりにくい理由です。
 水泳を続けて発作が起こりにくくなった場合、他の運動もできるようになります。またカゼをひきにくくなる、明朗、積極的な性格傾向になるなどの効果もあります。

予防法

 発作の予防のため以下の注意が必要です。

  1)運動開始前にウォーミングアップをしましょう。
  2)休息をとりながら行うインターバルトレーニングで、運動誘発喘息は起こりにくくなります。
  3)短時間に強い運動負荷をかけるのは避け、時間をかけて持久トレーニングをしましょう。
  4)運動終了時には、クーリングダウンをしましょう。

 喘息治療を継続し、良好なコントロールで、トレーニングを続けましょう。一人ひとりに合った治療法については、呼吸器科でお尋ねください。

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